市立函館博物館の佐藤です。
今回は当館に収蔵している日本では貴重な珍しい鳥2点を紹介します。
まずヘラサギ(学名:Platalea leucorodia)です。
ヘラサギ(H5-62)
漢字名は「箆鷺」と表記します。〈ヘラ〉とは,「ご飯などをすくう〈ヘラ〉」であり,「モノを塗り引き延ばす〈ヘラ〉」のことで,その〈ヘラ〉の形に嘴(くちばし)が似ていることから,この名がついたようです。英名では, Eurasian Spoonbill と言います。この英名の〈Spoonbill〉は「スプーンの形をした嘴」とでも訳せるのでしょうか。つまり「ユーラシア大陸に生息するスプーンの形をした嘴もつ鳥」となります。〈ヘラ〉と〈スプーン〉,生活習慣の違いで,使う道具による表現方法が多少異なりますが, どちらも「言い得て妙」な感じがします。
このヘラサギ,日本では少数が冬鳥として渡来し,北海道から南西諸島の各地で記録があるのですが,あまり一般的ではありません。
『日本鳥類目録 改訂第7版』(日本鳥学会 2012)によれば,北海道では,英語で Accidental Visitorと表記されます。直訳すると「偶発的事象により立ち寄った渡り鳥」=〈迷鳥〉となります。ヘラサギは5年ほど前にも知内で記録されています。
当館の資料については,1993年(平成5)に渡島支庁(現渡島総合振興局)から寄贈を受けた数十体のはく製標本の一つでしたが,この個体だけは,詳しい来歴が分かりませんでした。この個体と同時に寄贈された数点は,昭和60前後に渡島管内で〈落鳥〉=「鳥が死ぬこと」したか,保護され,その後落鳥した個体だったことから,この資料も渡島管内で落鳥し,はく製にされた個体と思われます。
次はサンカノゴイ(学名:Botaurus stellaris)です。
漢字名は「山家五位」となっています。
いかにも,中世の貴族みたいな名前ですね。
明確なモノではありませんが,名前の由来の一つとして考えられるのは,この「中世の貴族みたいな名前」が,サンカノゴイの習性によるモノです。
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この鳥は危険が迫ると,ヨシ原の中で,くちばしを上に向け,くびをのばし,翼を体にぴったりと付けて,直立した姿勢になります。このことで,「体の模様が周囲のヨシにとけ込む」ようになり,じっと動かない状態になることで「身を隠す」効果があるのです。ここでは,〈ヨシ原〉のヨシを〈御簾(みす)〉に見立ると,その様子はまるで「御簾の奥でじっと隠れいて,姿を表さない様(さま)」を表現しているというのです。ここでいう〈五位〉とはゴイサギの仲間という意味での〈ゴイ〉です。
サンカノゴイ(H4-157 )
もう一つの由来は単純です。〈サンカノ〉とは「山里深くに住む」ということです。〈ゴイ〉は先ほどの説明と同じです。
ちなみに,英名は Great Bittern となり,〈Bittern〉はゴイサギの仲間のことです。また,アオサギの仲間は〈 Heron〉,ダイサギなどのシラサギの仲間は 〈Egret〉 と呼ばれます。
話をサンカノゴイに戻します。
日本でのサンカノゴイは,特に北海道にまれな夏鳥として繁殖していると考えられており,繁殖期にはヴァーヴァーヴァーと牛のように太い声で繰り返し鳴くことから,「ヤチベコ」と呼ばれ,親しまれていました。にもかかわらず,「確実な繁殖記録は無い」と言われるほど,最近はほとんど記録されることはなくなりました。
「北海道鳥類目録 改訂3版」(藤巻 2010)によれば,過去の記録として,2006年4月11日(伊達),1999年4月16日(生振),1973年7月(網走藻琴湖,1939年9月4日(釧路)などでの観察例があるのみです。
「北海道では絶滅した」と言う人もいるほどです。残念なことです。
当館の標本は1987年10月25日に八雲町落部の落部漁港で保護され,その後死亡した個体です。この鳥の記録としては北海道でも比較的に新しく確実な記録です。このはく製が残っているのは貴重と言えます。
以上,ここでは2点のみ紹介させていただきました。
この2点は,現在当館で開催中の,3階展示室での収蔵資料展「博物館のどうぶつ園」コーナーで,展示していますので,機会がありましたら,見に来ていただき,どこに潜んでいるか探してみてください。