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市立函館博物館の奥野です。 当館では、いわゆる「常設展」はありません。館の歴史も長く、総合博物館としてさまざまな資料が収蔵されているなかで、担当者としては、なるべく多くの資料を紹介したい、という思いがあります。 老朽化した施設的制約のなかでの展示替えは容易ではありませんが、「企画展」や「特別展」のほかに、「収蔵資料展」「ミニ企画展」などと銘打ってテーマ展示を行っているのはそのためです。年2回の展示替えの度に、限られた館蔵品のなか、どのようなテーマを設定して展示を構成するかで、悩むことになります。 現在(2015年9月19日~)、当館第2展示室では「道南ゆかりの人物書画と女性の美」と題した収蔵資料展を開催しています。最後の箱館奉行・杉浦誠、榎本武揚、大鳥圭介などの箱館戦争関係者、松前藩主など、道南ゆかりの人物の書画に加えて、「女性の美」にかかわる髪結い道具、錦絵や絵画に描かれた「美人」を紹介する企画です。ここでは、「女性の美」に関する資料についてご紹介します。 資料を選定する際に、悩んだのが「錦絵」でした。 錦絵は、江戸時代に流行した、華やかな木版多色刷りの浮世絵版画で、現代でも伝統的な日本文化として、目にする機会は比較的多いかと思います。なかでも美人画は人気が高く、芸術性はもちろん、歴史的・文化的資料としても魅力あふれる資料です。 当館所蔵の錦絵を見てみると、「美人画」のほか、「役者絵」「名所絵」「物語絵」などが多く、美人画の台紙に下記の写真のようなラベルが貼り付けられていました。 ![]() これらの資料について、「市立函館博物館蔵品目録」には「TAKAMIZAWA 複製」とだけ記載されています。「なんだ、複製か、展示は難しいかな」、というのが第一印象でした。 しかし、調べてみると、この錦絵は「高見沢版」といわれる復刻版であることがわかり、興味がわきました。高見沢版とは、高見沢遠治(たかみざわ えんじ、1890~1927)とそれに連なる高見澤木版社による版のことです。 高見沢遠治は、浮世絵師で、腕が祟って贋作事件に巻き込まれた伝説的職人です。はじめは、破損した浮世絵などの修復をしていたのですが、修復した浮世絵をオリジナルとして販売するなど、悪用して販売する商人があらわれて、警察沙汰となり廃業します。後に、錦絵の複製を専門に手がけるようになりました。その技術を受け継いで、弟の高見沢忠雄さんが立ち上げたのが高見沢木版研究所という出版社になります。 「美術」を担当するようになってから、いわゆる「贋作」について考える機会があり、日本では科学的鑑定が遅れており、実は真贋の根拠があいまいであるとともに、模写を伝統とする近世の絵画界にあっては、模写や複製だからといって、社会のなかで意味がないわけではない、という考えもあることに気づかされました。 浮世絵は、絵師の原画をもとに彫り師が版木を作成し、それを摺り師が刷ることで完結します。そもそのオリジナル?も複製です。その点を考えて見ても、江戸時代の当初版ほどの希少性はないかも知れませんが、絵としてはそれほど出来映えが劣るということではありません。当館の所蔵品をみてみると、江戸時代のオリジナル?に比べ、新しい感じは否めないのですが、美しい作品であることに変わりはないと思いました。 ということで、今回はあえて、高見沢版の美人画を展示することにしました。 ![]() 「ばくれん」とは、すれっからしの女性、おてんば者を指す言葉。白い肌が際立つ右手でグラスを煽る女性、何とも艶っぽい雰囲気がありますが、左手には蟹を姿のまま豪快に掴んでいます。着物の模様には、男山や剣菱などの酒の銘柄が見えます。 ![]() あらわになった襟口におしろいを塗る女性。顔を鏡越しに見せる粋な計らいです。襟口や鑑に映った首筋をよく見ると、塗ったあとが微妙に表現されています。「曇りなき かかみにむかふふしひたひ 月のかんさし 雪のおしろい」(曇りなき 鏡に向かう富士額 月のかんざし 雪のおしろい)の歌が添えられています。 ![]() 着崩れた寝間着姿の女性が、蚊帳のなかで紙燭(しそく、照明具)を手にし、よく見ると視線の先には蚊が。寝苦しい夏の一夜でしょうか。 他の展示品についても少しご紹介します。 当館では、考古、自然、歴史・民俗、民族、美術というように、分野別に担当が分かれていますが、館蔵品すべてに精通しているわけでもなく、このような機会に他の分野担当と協力をしながら展示作業をすすめることになります。 今回は、「歴史・民族」担当の協力を得て、「松前奥方」と題された髪結い道具も展示しました。この資料は、これまでに「歴史・民族」としてはなかなか展示する機会がなかったのですが、異なる分野担当とテーマによる連携を図ることで、さまざまな角度からの展示が可能となり、新たな世界が拡がってゆくことも総合博物館ならではの醍醐味です。 ![]() ![]() ![]() 残念ながらこの「松前奥方」については、松前藩主の奥方が使用したと伝えられる以外詳しい情報は、明らかではありません。資料を見てみると、結った髪の根元に差して崩れないようにする「笄(こうがい)」、同じく髪の根元に巻く「根掛(ねがけ)」、髪を飾る「簪(かんざし)」、「櫛(くし)」などの道具で、鼈甲やサンゴ、木といった素材を生かして、巧みに美を演出しています。色鮮やかに描かれた錦絵美人とともに、往時の女性のおしゃれを垣間見せてくれます。 もう1点、興味深い資料がありました。「琵琶(びわ)をもつ女」と題された油絵です。 こちらの資料も残念ながら、かつて函館にあった内澗(うちま)町会に伝えられていた絵であること以外の詳しい情報はありません。 しかし、和紙に油絵具で描かれ、日本古来の書画にみられるように黒漆塗の額装となっています。画材や装丁からすると日本画的でもあることから、油絵が伝えられた初期の作品ともとれます。 画中の女性背後の屏風には、隠し落款的に「松本民治(まつもと たみじ)描」というサインがありますので、松本民治の作品らしいことがわかります。あらめて松本民治を調べてみると、明治期の洋画家であり、他の作品のなかにはこの作品と同じような和額の作品もあるようです(実物は未見ですが)。 どのような経過で、函館の内澗(うちま)町会に伝えられていたのか、いつ描かれたのかなど、まだ分からないことばかりです。(何かご存じのことがありましたら、ぜひお知らせください!)。 ![]() ![]() 今回の展示テーマの「女性の美」について、素材となる館蔵資料を確認するなかで、復刻版の浮世絵、「民俗資料」として登録されている髪結い道具、謎の絵画などなどさまざまな資料に出会うことができました。 今回のアドベントカレンダーのテーマは「道南の美術を知る」ですが、そもそも、「美術」って何?、という疑問もあります。インターネット上の辞書サービスで「美術」を検索すると、さまざまな「美術」の説明・解釈を見ることができますが、「日本大百科全書」(ニッポニカ、解説文:永井信一氏)の説明が目を引きました。 「美術」の項目:……美術とは何かという本質的な概念内容を定めることはむずかしく、時代や場所、あるいはそのときの社会現象によって概念が変革していく傾向がある。 「美術と歴史」の項目:……つねに現代の美的視点でとらえたものが美術の対象となるのである。…… 地方博物館での「美術」は、ごった煮的な様相を呈しています。 全国各地、ひいては外国から作品を大がかりに持ち込んだ「美術館」の巡回展を見ていると、地方の美術の意味を考えることにもあります。 資料を通して、「美術」って何?、という問いについて、自分なりにあらためて考えてみましたが、このつかみどころのない雑多性こそが逆に地方美術のおもしろみでもあり、そもそもがあいまいな「美術」の一面をよく体現しているように感じました。
by dounan-museum
| 2015-09-30 10:00
| テーマ「道南の美術を知る」
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