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こんにちは。 市立函館博物館の大矢です。 令和5年4月に、6年ぶりに博物館に復帰しました。 さて今回のテーマは、「テンキ」です。 テンキと言われてもあまり耳なじみがないかもしれませんが、千島アイヌがハマニンニクという草を使って製作していた小物入れやバスケットなどの編み細工のことです。 テンキを作る千島アイヌの女性(鳥居1919より) 1899年に鳥龍蔵が収集したテンキ(鳥居1919より) 右上は製作途中のもの 千島アイヌは千島列島北部に居住していた先住民族で、政府による強制移住や戦後の引き上げなどを経て、現在その文化継承者を自称している方はおられない状況です。 よってその伝統的な技術であるテンキづくりも一時は失われてしまったかに思われましたが、2000年頃に工芸家の知里眞希さんが国内各地の博物館の収蔵されているテンキを調査・分析してその技術を復元し、少しずつですがまた製作されるようになってきました。 残念ながら知里さんは若くしてお亡くなりになってしまいましたが、現在いろいろなところでテンキづくりの技術を活用した工芸品が製作されたり、体験講座が開催されたりしているのは、知里さんの成果に負うところが非常に大きいと考えていいでしょう。 かくいう私も2007年に函館市北方民族資料館で知里さんからテンキづくりを直接教わりましたが、とても難しく根気のいる作業であったことを憶えています。 このときはハマニンニクではなく、花屋などで購入できて加工しやすい別の素材を使って、3日間かけて製作しましたが、ご覧のとおり最後まで仕上げることはできませんでした。 2007年に知里さんに教わって作ったテンキ 話がちょっとそれてしまいました。 市立函館博物館では2021年から、アイヌ民族文化財団の認定工芸家である信太成子さんを講師にお招きして、毎年テンキづくり講座を開催しています。 信太さんも知里さんの成果に触発されて技術を習得され、木綿糸や鯨の髭を編み込むなど精緻でバリエーション豊かなテンキを製作しておられます。 今回は信太さんのテンキづくり講座の開催概要について紹介します。 信太さんの作品 テンキづくり講座の準備は、ハマニンニクの採集から始まります。 事前に森町の役場にことわりを入れ、令和5年7月4日の午前、森町砂原の砂浜に車で向かいます。 もっと博物館の近くで準備できればいいのですが、講座のためのまとまった量を確保するため、片道約1時間をひた走ります。 砂浜一面に繁茂したハマニンニク 10月に開催する講座の準備には少し早いようにも思われますが、あまり早い時期だと成長していないうえ水分が多くて加工に時間がかかり、遅くなると穂がついてしまって素材に適したいい繊維がとれません。 ハマニンニクはタマネギのように、外葉をどんどんむくことができます。 根元近くをはさみで切断し、その場でテンキづくりに使うことのできない外葉をあらかたむいてしまいます。 開いた外葉はその場でむいてしまう このようにして2~3時間かけて、ワゴン車のトランクいっぱいになるまでハマニンニクを採集します。 この日はかなり日差しが強く、半袖で来ていた私はこの短時間で腕が低温やけどのような状態になってしまいました。 信太さんはさすがの完全装備です。 ハマニンニクの乾燥作業 博物館に着いたら、作業場でハマニンニクの乾燥作業です。 本当は外で干しても問題ないのですが、夜間や休館日に雨が降ったらせっかくのハマニンニクがだめになってしまうことや、虫が付きやすいことから、信太さんは屋内干しを推奨されます。 実際、実験的に外に干したものにはあっという間に蟻がたかってきました。 作業場にはブルーシートを敷き、さらにその上に敷いた新聞紙の上にハマニンニクを広げます。 また室内換気扇を作動させるとともに、サーキュレーター2台と除湿機3台を稼働させます。 定期的にハマニンニクの位置を変えるなどして、均一的に水分が抜けるように配慮しながら、乾燥作業は3日3晩続きます。 7月7日、ハマニンニクの二次加工作業を行います。 あらかた乾燥したハマニンニクの外葉をさらにむき、一番内側の繊維を取り出します。 一番内側の細い繊維はテンキを製作する際の「巻材」に、そのすぐ外側の葉はテンキを形づくるコイルの「芯材」に使い、さらにその外側の葉は使いません。 こうして採取した巻材と芯材は、新聞紙で作った保管用の袋に分別して収め、温湿度の安定した場所で保管しておきます。 この作業が終わる頃には、ハマニンニクは当初取ってきた量の半分以下にまで減っています。 講師と私の2人で準備できる量には限りがありますので、受講者はどうしても限られた人数にならざるを得ません。 細かく根気のいる作業がずっと続きます。 ![]() より分けたハマニンニクの葉。左側が巻材となり、右側が芯材となる。 講座開催までまだ時間はありますが、講座で使用する物品の準備も忘れてはいけません。 当館の講座では以下の物品を準備しました(すべて1人分)。 ・針穴が大きめの縫い針 1本 ・針山(ウレタンで手作り) 1個 ・ハマニンニク 芯材 30本 ・ハマニンニク 巻材 30本 ・作業用ハマニンニク繊維(10cm程度) 1本 ・しつけ用木綿糸 1巻 ・ストロー 1/3本 ・ハマニンニク加湿用タオル 2枚 ・45リットルゴミ袋 1袋 ・新聞紙 1枚 ・工作用はさみ 1挺 ・テキスト「テンキの妙」抄録 1部 また当日作業しやすいように、開催前日にあらかじめハマニンニクを加湿しておきました。 ハマニンニクを参加者1人分ずつ吸水させたタオルに包んで、さらにビニールで包む。 参加者の作業台を人数分セッティング 10月3日、いよいよ講座開催当日です。 3回目の開催ですが、参加者は毎回満員御礼です。 前日から加湿しておいたハマニンニクを開催前にビニールから取り出し、タオルに包んだ状態で作業台に配置しておきます。 このときタオルは全部白色のものを使っていましたが、芯材と巻材を色の違うタオルで包んでおけば参加者が作業しやすかったなと反省。 巻材と芯材を分けてタオルに包み、作業台に配置 こうしていよいよ13時30分から講座がスタートです。 千島アイヌのテンキづくりの要領で、直径10cm程度のコースターを作っていきます。 製作方法は信太さんの著書『テンキの妙』に詳しく書かれているので割愛しますが、信太さんの指導は優しく的確で、3時間という短い時間ながら参加者は全員完成させることができました。 信太さんの指導風景 初めての開催時(2021年)に私が信太さんの指導のもと製作したコースター(途中) 講座の参加者にはみなさん満足していただき、「是非ハマニンニクの採取から参加してみたい」という方も少なからずおられました。 ただハマニンニクを採取する場所がなかなか多人数では行きづらいことや、何回も作業のために集まらなければならないことを考えると、ハマニンニクの採取・加工から参加してもらうにはまだまだ課題が多いと思っています。 また手に入れやすい素材でもっと多くの参加者を募ることも考えましたが、講師の信太さんはきちんとハマニンニクを使って作ることが大事という考えをお持ちのため、それを尊重しています。 近年のアイヌ文化研究においては、民族誌や博物館資料の調査研究から得られた情報だけでなく、実際に資料を製作することから得られる実践的な知識をそこに融合することによってさらに展開させる研究が見られるようになってきています。 このような講座が第一義的に市民へのアイヌの文化普及・啓発において重要な役割を果たすことはいうまでもありませんが、途絶えてしまった文化伝承の復元や調査研究にも寄与できるようにと考えています。
by dounan-museum
| 2024-01-19 08:51
| コラムリレー
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